言葉の納戸―突き刺さる箴言⑨

 人間は文学や哲学や音楽のような様々な「作品」をつくる。
 最初は作品をつくるだけで楽しいが、だんだんそれだけでは満足できなくなる。
 他の人の作品をみて、「自分はマダマダだなぁ」と思うからだ。
 そこで人は多くの人を説得できる普遍性のある作品をつくろうとしはじめる。
 こうして<ホンモノ>をめざすゲームがはじまるのである。

(ヘーゲル*)

 近代哲学の完成者であり、哲学者と言えばヘーゲル、ヘーゲルと言えば哲学者と言われるほどの大文字の人であることは誰もが認めることであろう。私はこんな大哲学者の代表的な著書『精神現象学』を何度読み始め、何度躓いたことであろうか。まるまる2頁、1行も意味が読み取れないという恐ろしい事態に直面し、自己嫌悪に陥ったこともあった。この本、世界中でどれだけの人間が明確に理解しているのだろうか、不思議な書物でもある。故に、ヘーゲル入門者は、はじめに絶対に手を出さないようにお勧めする。それだけで、ヘーゲルとは縁が切れてしまうのではないかと思う。ヘーゲルは歴史哲学・宗教・美学講義(死後弟子がまとめたもの)あたりから入るのが無難である。このヘーゲルを一生毛嫌いしたのが、前回紹介したショーペンハウアーで、彼のヘーゲルに対する辛辣な悪口を全部集めて読むのも楽しいかもしれない。こんなに人を嫌えるものかと、ある意味、凄みさえ感じさせてくれる。そんなことはどうでも良いのだが、さすが大哲学者、彼の名言は、ゲーテと並ぶほどに、突き刺さるものが多いのである。上の名言もその一つで、私は、教えている学生に対しての餞(はなむけ)の言葉としていつも贈っている。

 ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel, 1770年8月27日 – 1831年11月14日)、ドイツの哲学者。カント、フィヒテ、シェリングと並んで、ドイツ観念論を代表する思想家である。1831年11月14日 コレラで逝去。
 古典に通じた該博な知識で現実的かつ理想的な哲学を展開し、同時代のみならず後世にも大きな影響を与えた。主な著作は『精神現象学』、『論理学(大論理学)』、『エンチクロペディー』、『法哲学・要綱』がある。『歴史哲学』『美学』『宗教哲学』は、没後 弟子たち(ヘーゲル学派)により 講義と聴講生のノートを中心に編纂されたものである。因みベルリン大学でショーペンハウアーはヘーゲルの主講義と時間を合わせたが、ヘーゲルの人気に比べ自身の講義には聴講生が集まらず失望してしまう。